□箱の中□



 ママは私にこうしてはダメと言い、パパは私にこうしなさいと言った。
どちらかに決めることができなくて、私は箱の中身を半分に分けることにした。箱にはいつも、私の物でないものが入っていた。そして毎日入れ替えられた。
ママは自分の嫌いな物を、パパは自分の好きな物を詰めていった。取り出して、投げ入れられるのを、私は大抵黙って見ていた。たまに、欲しい物を入れてとお願いすると、難しい顔をして蓋をじっと見つめるか、箱を殴っていったので、これ以上「ぼこぼこ」にされたくなかったのだ。

箱には小さな鍵がついていた。幼い頃、私はその使い方を知っていた。川辺で拾ったきれいなびい玉や、お菓子のおまけを隠しておいた。今ではそんな物が取られるはずないと分かるけど、小さかった私にとってはとても大事な物だった。―こじ開けられてから後、それらがどこへ行ってしまったのか、思い出すことはできないけれど。

悲しそうに、うれしそうに、出し入れしていくママとパパ。ごめんなさい。もう少ししたら壊れてしまうのを、私は知っている。溢れてしまったら二人は泣くかしら。こぼれてしまった物を拾い上げて、別の容器に入れるのかしら。
逆さまにした箱を、両手で持ち上げて振ってみた。何かが混ざり合うのが聞こえた。私のものでない音だった。


最終更新日 :07/02/28