□ゆきていか□

頭上高く 幾億の声がさざめいている

"私は行く それを知らせる前に"

カストルは流浪のかがり火
むつら星が息を吹きかける

夜の時は同じだというのに
太陽はまた昇るというのに

明日の朝 あなたがいない
それはもう決められた事

永遠を見付けに行ったの?

青い鳥は家の中だけど
必要な物は違ったのね

私には与えられない何か
手掛かりさえなくて目眩をおぼえる

そこにその列の中にいる
サザンクロスの足下
胸を反る鷺の群れ

甘いお菓子に慣れなくて

南に降り注いだ流星が連れて行った

□ラプンツェル□

知っていたはずよ
この城は高すぎて
白馬の王子様が登ってこれるわけがない

「愛してる」なんて
いい加減うんざりよ
こんな遠い場所から顔も分からないのに

愛してる
愛してる?
だから何だというの
そんな物はポケットにしまって
見えなくたっていい


理由を聞きたいわ
お美しいと何故言えるのか
古ぼけた門に驚いたでしょう

降りれるものなら最初からそうしてる
通りすがりの他人なんて頼らずに


大好きよ
王子様
やっと出ていけるのね
三つ編みを
切り捨てていくわ

愛してる
愛してる?
そんな勇気あるのなら
甘い夢に
惑わされないで

愛してる
愛してる?
だから何だというの
そんな物はポケットにしまって
見えなくたっていい

□前奏□

その完全な記憶をなぞり
荒野にたたずんでいる

私が鳥を追ったのはいつだったか
瞼を焼き潰した光の雨
振り向いたあなたを、一瞬で陰にした

花は咲いていたか
空は青かったか
風は流れていたか
樹は草はどうだったか

永遠なる物を望んだ人よ
私はこの場所しか知らない

□幕間□

闇の中でも君は全てを見続けて
一度も手に入れられなかった物たちが
ここには溢れかえっているのだから

□前奏からの場面@□

遠くに―ずっと遠くに彼等がいた
なわとびするあの子
膝を泥だらけにして駆け回る
守られるべきその対象

彼等の一人が気付いて手を振った
日向の温もりを全身から発して
きらりきらりと

幼い子が吹いたシャボン玉が
少しずつ高さを増して飛び
目の前ではじけた

悲しみはどうあるべきだったろう
君も君が守る全てもやがては消える

君が呼んで、僕は僕の名前を知った
お前など知らないと、世界はそう言ったのに

□一口のパラダイス□

あなたのような子もう知らない
言ってママは出ていった

それは私の台詞でしょう?
パンにジャムを塗りつけた

ママは行った 誰もいない
自由に? ああ、なんて自由!

化粧道具を引っ張り出して
口紅ベタリ 鏡でニッコリ
タンスにはママが隠してた
素敵な洋服だって入ってる

ラジオの歌を聞きながら
長いドレス着てステップ踏む

華麗なターン 陽気にワルツ
ダンスはとても疲れてしまう

なんだかお腹が空いてしまった
 
テーブルのお皿は一つだけ
私は冷えた料理しか知らない

まわりをきちんと整えて、ちょっとだけママの席を見る
スープの味は、ママのようにはいかなかった

□幸福な姫□

頭の上に降ってくる これはなあに

安楽なベッドの中で ぎゅっと目を閉じている
『起きたら嫌な事ばかり!』
お姫様は顔を手で覆う
朝が来るのが怖いと言って

すうすう眠るお姫様
迎えが来るのを待ってるの?
あなたは音楽さえ手放して
小鳥のさえずりを遠くした
幸せな幸せなお姫様

城壁の向こう側 夢に描いて
来る日も来る日も眠り続ける
矢尻を突き立て合う争乱の角笛は彼女に聞こえない

『なんと私は可哀想な娘、篭に囚われた雲雀』

お姫様はすすり泣く

門の向こう側で乳を得られず、赤子は弱る
破れはためく旗の下 腐れ朽ちる人であった者

ここから出たいと、甘やかに彼女は願う
 
なんて不幸なお姫様
なんて幸せなお姫様

□ナイフ□

ねえ 本当に
守ること守られることが全ての答えなら
ナイフをかざし涙流すこと忘れても
生きていくことぐらいはできるだろう

開いた窓から打ち鳴らされる拍手の嵐

荒稼ぎのいかさま師
隣村に下野した兵士
林檎を売る小さい娘
劇場の支配人
衣装輝く踊り子達

夜を一つ越すたびに
心に刻んだはずの言葉が霞んでいく

色とりどりのテープ紙吹雪
腕を交わした遠い約束事

『君の行き着く場所を教える者はいない。
白い紙の上で、僕らはただ地平を目指す』

始まりは何だった

終わりは何処だった

君、

忘れゆくことが 僕はこんなにも恐ろしい

□午前0時□

柔らかいソファに寄りかかりながらテレビを見てた
青は青だというだけで、飛び散った血を染めることが出来ないから

昼下がりの光線
撃たれ倒れたのは人形ではなくて
メダルを取り合い胸に付ける

砂嵐 まるで雨のように

ひまわりの迷路
楽しかった浜辺
目を閉じれば
優しい波音が
聞こえるでしょう

届かないのなら上を見て
焦げるまで飛び続けるから

羽根を拾って眠ればいい

ねぇ 聞こえるでしょう

□on the grave□

吐き出す言葉は間違いの方が多くて

イワナカッタ?
ナニモ ナニヒトツ?

約束するよりも簡単
選べばいいの 切り捨てて

千切れた詩にばらまいた
白い骨 欠片拾って

イワナカッタ?
ナニモ ナニヒトツ?

捻り込んだ本当のこと

あなたは気づかず、私を棺に収める

どうしたら正しく言えるの
誰にも嘘をつかないで、お話できるの

イワナカッタ?
ナニモ ナニヒトツ?

あの時とこの時の言葉
ばらばらでばらばらでない

声も光も細く途切れていく
お別れに薔薇を頂戴

もう見えなくなるよ

□吸血人間の最期□

貧相な腕を囓って
指の間をいっぱいに広げたのね

頭の中から外を覗き
出てゆけない世界に怯えたでしょう

膝をついて雨ぱらぱら
頭の中真っ白
気違いに躍る子供
眺めたらそれで終わり

雄鳥の鳴く朝が来るわ
道具の使い方を知っている?―そう、なら安心ね。

耳を塞がないで
もうすぐだから
焼け爛れる様を
その目で見て

                                  (ほら 鳴いた)
□円(えん)の歌□

私は指を動かして
形良い円を描いた

くるくると
くるくると

円は途切れることなく宙を回った

円から離れたものは無いのと同じだった
離れたのなら戻ってこなければならなかった

指がちょうど下に動く時
遮ぎっていた太陽が現れる

それは眩しく
あまりに尊大で

一瞬の喜びと焼き尽くされる恐怖で
指を回し続けずにはいられなかった

腕は痺れ、重くなり
けれどまだ回り続けている

たいよう
たいよう

円の外

もう返らない物

最終更新日 :06/02/06