□a fair girl□

あなたが私を作ったね
心血注ぎ、理想を込めて、頷くばかりなるように

あなたが読んでいるのは何
『お前が生きるために必要だ』と開いて見せた

あーあ 明日は晴れかしら
あーあ それとも曇るの

私は本だけ読んで、そして夢見る
この手が誰かを救うのを
女神のように奇跡を起こすのを

本だけ読んで夢見てる



お外は雨になってしまった
傘も差さない水溜まり
窓に見ていた花が凍えている

あーあ 文字が滲むから
あーあ 持っては行けない
あーあ あなたはきっと怒るわね
あーあ ここからじゃ届かない

私は本だけ読んで、そして夢見る
この手が誰かを救うのを 何かを守れるのを

きれいな言葉は硝子のように落ちて砕けた
いくら歌を歌っても 叶わないなら 叶わないなら



栞はさんだらもう行くよ

雨粒キラリ涙みたい

□時計の音□


膨大なデータのただ中に送り出される以前、
僕は時計を持っていた。
銀の鎖が付いたやつだった。

肢体を丸めて眠る腹の上で、
母体の収縮に合わせて動いていた。

目を開けると、時計は鎖と共に消えた。

確かに首にかけていたのだと主張しても母は笑う。
それは心臓の動く音だと言って。

役所が夕刻のチャイムを鳴らす。

僕は鉄棒の居残り練習をしている。

赤く染まった雲が爛れるのを見ながら、
僕は地を蹴り上げる。

目に映る全てが反転する。
元に戻る。
反転する。
元に戻る。
反転する。
網膜は体の信号に正しい反応を示す。
その事に少し腹が立つ。
手のひらがもう豆だらけだ。

靴の裏が乾いた砂の表面を転がし擦れる音に、
胎の中で聞いた針の震えを思い出した。

あれは時が刻まれる音、あるいは巻き戻される音。

昔々、陸に上がりし動物たちが、
彼等自身の名前を呼び合っていた頃のこと。
殻のような物をまだ誰もが身につけていなかった頃のこと。
始まりまで逆流し、今際の時へ回転を続けながら、
動き出してから何処かではみ出た物が、秒針の軌跡に還っていく。

心臓が時計を真似たのならば、
悲しみのような物、懐かしい風景を、
それは覚えているだろう。
僕の頭が忘れても。

□足裏の太陽たち□


子供達は黄色い花輪を頭にして
野原を駆ける
そのなんと速いこと
彼等はみんな
南中した熱の下にいた

ああ、と谷が言った
何か大きな塊が落ちてくる
茂った山の頂きに
だんだん近づいてくるのだと

花よ花よ
積もれ積もれ
はやく積もれ

太陽

たいよう

一番眩しいもの

お前ではなかった光に
踏みつけられたお前の光

そこで見たのか


最終更新日 :07/02/28