□静かな庭□

少し眠っていた間に何もかもが変わってしまった
指切りした人がいなくなって名前さえ思い出せやしない
"君のために"と言っていた気がする

歩いていると少しだけ好きだった物を思い出す
突き落とすような青を、今もあなたは見ているのかしら

疑いようのない物になりたかった
救いようのない物になりたかった
あなたのためになど生きたくなかったと喚いて

怒っていた?いいえ、きっと泣いたはず
優しすぎる人だったから言えたこと

家が、ほらもう近い
飛び込むのよ 殴られてでも
あなたのいない庭は、だってあまりにそっけない

□さようなら□

同じ場所に行けると感じてはいないけど
何が理由だったかは分かっている
君は痛みを受け入れた
僕は痛みをあきらめた

□α□

地球に灰色の足跡が付くようになって、
そこら中に天使が現れるようになった。
輝く羽と美しい衣を纏って
天使は人を連れ去った。

大統領も科学者も工場主も
ここから出たい人は順番を待った。
お金持ちは目立つように体に金を塗った。
背の低い人は八つに裂いたパンを捧げた。
何も持たない人は手を組んで祈った。

やがて

白い光がいくつも飛びかい、空は光の固まりになった。

「なんてきれいなんだろう!」
みんなは喜んで拍手した。
大統領は天使に抱えられ、ぴかぴか輝いた。
人々のパンは清められて一つになった。
掃除扶の真っ黒な手から傷がなくなった。

そうして一人ずついなくなり

最後に小さな少女がのこった。

天使が言った。
あなたでおわりだと

少女は金もパンも持たず、祈りも知らない年だった。
けれども首を傾げて、ただ一度だけ
空を見上げて微笑んだ。

少女が頭をおろすと、天使はもう消えていた。
空には白い光の代わりに、透きとおるような青がのびていた。

誰かが流した涙のように、水を塗った空気が落ちた。
□星降る丘□

夜の静寂が心地よく、絶望に焦がれて耳を塞いだ
でもこの目はまだ星を見てた太陽を見てた

かすり傷にさえ臆病なくせに何になろうとしていたの?
手を引いてもらうことしか知らなかったのに

変わっていく風景を止めることができなくても
忘れがたいものを感じることはできる

星の止まるとき
それは今日かもしれない
それは明日かもしれない


海の向こうは遠いけれど、昔々は希望があった
例え一つを知ったとしても、それが全部ではないの

約束ばかりが溢れて最初の言葉を探している
なだらかにくだる道、不安定なあなたの色

この目が閉じるとき
それは今日かもしれない
それは明日かもしれない

□der father□

木漏れ日がやけに眩しくて、俯いて歩いた
秋が来るのだとあなたは言った

目の前の一瞬 しがみつくことに必死で
たなびく雲が紫だと気付かなかった
地平線の向こうに上がる煙を
どれだけ待てば消せるのか

father愛だったなら
fatherいつも振り向けた

懐かしいあの時の真似をして
ふわりと優しいケーキを焼いた
ベリーを摘んだきれいな指は
今は夢の中だけで私を諭す

絵本にいた動物みたいに
針の戻し方を知ればよかった
大好きな物大好きだった物
近すぎた物をただ並べるぐらいなら

fatherもう一度
fatherどうか聞かせて

father愛だったなら
fatherいつも振り向けた

□シャトル・ベイベ□

追いかけたのは無邪気な風
足下を緑にさらわれて転ぶ
飛んでいく飛行機の陰は長く
あなたを遮る物などそこには何もない
弱い足よ、速く速く、どうか走って

この体が雲ならば
追いつけたのでしょうか
 
目を刺すような蒼
焼き尽くすような蒼
―それは青、ではなく
小さくなっていく機体を
あっさりと飲み込んだ
□rain□

This is my house.
I lived there.
I had my mother,father,and a sister.

This is my house.
I lived there.
I had my mother,father,and a sister.

Father slaped sheeps back.
His figure was dyed red
by sunset. He bit grass.

Mother sang for sister to sleep.
Only sounds through her mouth,
our memories will be left.

The roof is broken by ash.
The sky has no rain and
shouts tearing its body.

Who taught me their songs?
Who do I leave my songs?

Like a naughty boy,
strangers are only playing.

This is my house.
I lived there.
I had my mother,father,and a sister.

This is my house.
I lived there.
I had my mother,father,and a sister.

□雨□

ここが私の家
私の住んだ場所
父と母と妹がいた

ここが私の家
私の住んだ場所
父と母と妹がいた

羊の背中を穂で払い  
日暮れに姿を染めて
父は草を噛んでいる

母は妹に歌っている
口伝えに音だけを
お前の子にも教えなさい

灰が屋根を壊していくよ
雨を忘れた空が
体を裂いて叫んでいる

歌を教えたのは誰
歌を教えるのは誰

片づけられない子供のように
彼らは遊んでばかりいる

ここが私の家
私の住んだ場所
父と母と妹がいた

ここが私の家
私の住んだ場所
父と母と妹がいた

□スウォンジーに□

私は自分の動作を知っていました。
いつか見捨ててしまうこと、切り離して生きていくことを。

崖っぷちに立つあなたは、勇敢な老人のようでもありました。
同じものを見ていたこの目をもう一度開けるならば、
私は今度こそ顔を上げて、広い天球を仰ぐでしょう。
光溢れる草原をどこまでも、共に駆けていけるでしょう。


夜がきて静かになりました。
月はいつも他人を装うのに、白々しく形を変えては現れます。
今日はもう窓を閉じなければなりません。

目を閉じた一瞬だけ、あなたが隣で囁くような気がします。
憎しみも愛も届かなかった、私は一人だと。

誰かが路地で残骸を踏んでいるようです。
猫が死んだ鷲を拾いにやってくるかもしれません。
食べれるような物があるのかどうか、彼らはちゃんと知っているのです。

―いつまでたっても、書くことに慣れません。
今日はもう休むことにします。

ベッドから見上げた闇にはぽっかりと、底の見えない穴があいています。
なかなか寝つけない日には、誕生日に貰った物を数えています。
母か父かそれとも兄からだったか、思い出すこともできない昔のことですが。

明日になったら封をして送ろうと思います。
秋がもうそこまで来ています。よい夢を。

□砂漠の太陽□

砂漠の太陽はひとりぼっち
旅人には強すぎて
ぎらぎらぎらぎら嫌われる

砂漠の太陽は考えた
うんと寒いところに行こう
僕を必要などこかに行こう

あちこち遠くまで眺めてやっと、
みんながぶるぶるしている島を見付けた

毎日毎日ぽかぽかするように
砂漠の太陽はとてもがんばった
気持ちがいいとにっこりされるのが
うれしくてずうっとがんばった
砂漠の太陽は幸せだった

だけどだんだん熱くなり
日焼けもサウナもいらなくなった
そしてとうとうやっぱり
「どこかへ行ってください」と
お役御免の通知が来た

砂漠の太陽はがっかりした
島を離れてとぼとぼと
いつまでも残れる場所を探している

□一人楽団□

たん、たた。たん、たた。うれしい音。
ぽろぽろ。ぽろぽろ。悲しい音。

周りはどこも音で溢れてる。
聞きたい音も聞きたくない音も
たくさんたくさんあるの。

きいきい。きいきい。
鼠が鳴く。
ざあざあ。ざあざあ。
雨が降る。
ぐーすか。ぴーすか。
眠ってる。

たんぽろきいきいぴーすかざあ。
みなさん一緒に歌いましょう。

「―」。「―」。「―」。

体は空気が漏れた笛のよう。
いいえ失敗。もう一度。

「―」。「―」。「―」。
「―」。「―」。「―」。

それはずっと頭の中。
どうして音にならないのか。

たんぽろきいきいぴーすかざあ。
たんぽろきいきいぴーすかざあ。

□夢見るドール□

引き止めてくれてありがとう
そんな危険な所
行かなくてもいいと言ってくれて

まだ大丈夫と言い聞かせながら
砂を噛み続ける
それはとても長い戦いだった

ここは安全ね
どこも完全に用意されて
棘は深く眠っている

ああ、だけど私は虹が欲しい
雨さえ敵わない強い物になれるなら
ずぶぬれで構わないのよ 泣いたって

きっと髪はぼうぼうで埃にまみれ
ワンピースなんて脱いでしまっている
お気に入りの物たち手放しても (ああ、だけど、それでも)

たった一つ得られる物があるのなら
腕に抱いて立つことができるから

□十二色の動物園□

ほら、あれがゾウさん
鼻を背にまわして水浴びしてる
首が長いのはキリンです
頭に登り滑ってごらんなさい

羽根を広げた孔雀はなんてハイソ
ヒールをかつんと鳴らしておすましポーズ

ふさふさ毛並みを親子で整え合う
眠い顔した二匹のお猿

はいはい並んでくださいな
右から左 下から上に
お気に召すままなんでもござれ

そらそらあなたはピンクのゾウ
葉っぱを食べ過ぎる君は緑のキリン
夜舞うアゲハみたいな彼女には赤が似合う
優しい子には暖かな土の色をあげよう

動物みんなぐるぐるまわる
声も形も溶けるくらい
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるまわる

混ざれ混ざれ 混じり合う

これは何色?

□楽園のイグアナ□

満足できる答えが欲しいなら
他へ行くべきね 私ではなく

女達が相手をしてくれるから
胸が空になるまでお喋りなさい

南国の花で精一杯のおしゃれして
労りを肯定をと数えながら、黄色い太陽見つめてる

そんなに遠くに行けやしない
ここはとても小さな島だから

可愛らしいお城があったなら?
両手両足がもっと長かったなら?

だけど自分の姿が誇りだから、イグアナは黙って考えている

最終更新日 :06/02/06