□erica□

過ぎていく雲をつかまえて
ここにいてと泣いた
きらきら光る後ろ背に
呼吸乱して手をのばす
喉に絡む熱い息
唇で歌が破裂する

望んだのは私なのに
まだ解けずにいる
この指を折って足を砕いて
動力が尽きれば守りきれる
だから少しだけ待っていて

エリカ
草原で空を見上げる花
実を運んで頂戴
嘴に乗せて
私を遠くにやって

エリカ
草原で空を見上げる花
あの人に会ったら伝えてね
忘れていい 笑ってと

あなたはとても自由なの
涙を食べて軽く舞い上がりなさい

エリカ
あなたはとても自由なのよ

□森の小道□

石をポケットに入れておくことが必要だった
まっすぐな道なんてないから、目印をつけておくの
ちゃんと最後まで進めるように

来た道を戻るのはつらいけど
標を見つけてまた歩けるわ

何度も後ろを振り返りながら
日が暮れだすことに泣くでしょう

転んだ膝でやっと辿り着けたなら
あなたを見つけて微笑むから


悩みなどない顔をして一人で遊んでた
失えない記憶を縛り付けていつか行くのだと、
落ちていく夕日に手を染めて

一緒に終わることができたなら、さびしくはないけれど
自分自身さえ置き去りにして、何を抱き留めておきたいの

夜の星を見上げて泣けばいい
決して得ることなどない夢を見て
それがどんなに大事だったかを知るでしょう

ほら、もう少し

『ただいま』

『おかえり』

□とこういうこ□

。るあもとこるかわとっや、てっどもにしだりふ
。らとせとえよいくにみよ、なかば、かさま。あや

□スカイハイウェイ□

渡れば赤いざくろ道
傷のない靴を欲しがるひどい矛盾

今は踵が痛くても
踏みつぶした軌跡は柔らかく
蔑みも慈愛も一つになる

鮮やかで強すぎた光線
二人乗りした自転車で
見慣れた風景を駆けてきて

染みこんだ手の絆さえ乗り越えて

泣き方を笑い方を覚えていて

□地上の像□

貴方が生やしたその羽根は
平静と観念とに塗り込まれ
絶えることのなかった羽ばたきを
二度と見ることはなくなりました

背中に垂れた赤い血を
零すことなく受けとめましょう
爪先から溢れた残りでさえ
私の腿の上に跳ねるでしょう

私の羽根は貴方の物ではなく
代わりをする事もできないので
私はただ見ています

その付け根が乾くまで
切り落とした傷跡から
貴方が自由になれるまで

新翼を拡げて それですっかり飛べる

折れた羽根は私の腕に

馴染んだ足、ここから
私は貴方を見ています

□にゃんことわんこの行進曲□

にゃんこお目覚め大あくび
まぐろかんづめ朝ごはん
なにかよいことないかしら?

わんこおさんぽ大はりきり
自転車おそいぞ次は右!
なにかよいことないかしら?

あーあ、あーあ、聞いてよ、ほらほら

にゃにゃにゃにゃー、にゃー、にゃーー!!
わわわわお、わお、わおーーん!!

だけどパパもママもお出かけです

「いい子にしていてね」

まぐろも自転車も好きだけど
それだけでは何かつまらない

お隣もかしら?
お隣もかな?

にゃんこわんこは嫌いだけれど
わんこにゃんこがむかつくけれど
たまには遊んでやってもいいかと前足上げた

ぽかぽかしてる、今日は不思議な感じ
□white・white□

瓦礫の街に音もなく
しんしんと降っている

"Oh,Boy. You must go." (さあ、行くんだ)
僅かなパンを胸に抱いて
すすけた道を歩く

広場では数人が集まって
バイオリンを聴いている
彼の指はまだくっついているんだ
もう聞こえないのだとしても

始まりのように何もない
そこは白く ただ静かで
物事が終わるのをじっと見ている
何もかもに平等でいられるように

"Oh,Boy. You must go." (さあ、行くんだ)

でも何処へ?何処へ行けばいい?
心から家の中に迎えられる事を
まだ期待しているなんて

全てを帳消しにしてくれたらと願う
 
缶に火をたいて項垂れる若い男
あれは昨日まで兵士だった

You go away. (さあ、行くんだ)
You go away. (さあ、行くんだ)
You go away. (さあ、行くんだ)

Before you are left in no move. (一人に安心する前に)


朝靄に耳鳴りを感じた
体を丸めて聴いている

"Look! The sun rises." (ごらん、日が昇る)
痛むだろうけど開けてみて
手はまた暖まるだろう

穴が開いた壁によじ登り
破れまくりの旗を振る
誰の物でもないそれは生きてる証
だから力一杯振るよ雪が溶けるまで

"Oh,Boy. You must go." (さあ、行くんだ)

花が咲いたらきっと
あの音楽に合う歌を探そう
無条件の存在 幸せになれるように

You go away. (さあ、行くんだ)
You go away. (さあ、行くんだ)
You go away. (さあ、行くんだ)

Before you are left in no move. (一人に安心する前に)
Because you are still in sunlight. (だってまだ光の中だから)

□二番目の物語□

一人静かに彼女は立っていた

美しいと言ってくれる人もなく、鳥も降りない東の地平で、
柔らかな日差しに身を晒して祈っているようだった

季節は今や、眠りに入らんとしているところであった

種の呼び声にも答えず、彼女は一つの方向を見定めていた
視線を外したその合間に、旅人が通り過ぎてしまうのを恐れているかのように

降り積もる
彼方から彼方へと
全てがとうとうと眠り込む

やがて訪れた芽吹きの日
目覚めに従った子らは、次々と土から腕を突き出した
―そして見たのであった

名もなき花は葉を朽ちらせ、雪原に根元から横たわっていた
全身を泥水に浸したその姿は、見る者に不快でさえあった

安全なる彼等は一時を憐れみの時間に割いて、
実をつける準備に意識を戻す
それはあたかも倒れた同胞を目の前にして、
同じ愚行を繰り返さぬがための儀式のようだった

しかしながら終息の間際
彼女が見たものは絶望であっただろうか

ぬかるんだ小道に車輪の跡

ふうわりと、私には彼女がとても
とても満足げに笑っている気がしたのだった

最終更新日 :06/02/06